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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)219号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証(本件考案の実用新案出願公告公報。以下「明細書」という。)によれば、本件考案は左記の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙第一図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本件考案は、温水又は冷水を洗滌液と混合して洗滌銃により噴射し、自動車の洗滌を行う洗車装置に関する(第一欄第一五行ないし第一七行)。

従来の洗車装置は、温水を得るためにパイプをラセン状に巻いた加熱コイルを用いているが、加熱コイルは内径が小さいので目詰まりを生じ送湯ポンプの故障及び加熱コイルの破損のおそれがある上、内部抵抗が大きいので温水供給量が限定され、水圧が低い場所での使用が困難であり、耐久性も劣る。また、従来の洗車装置は、燃焼装置を送湯ポンプ操作機構から独立して作動させることができないので、装置使用当初は温水を噴射させることができない上、温水洗車と冷水洗車とを独立に行うことができない。のみならず、冬期には、加熱コイル内の水が凍結膨脹してボイラーが破損するおそれがあるので、装置使用後に水抜きをせねばならず煩雑である(第一欄第一八行ないし第二欄第一四行)。

本件考案の目的は、従来の洗車装置の右欠点を除去し、快適に使用し得る自動車用洗車装置を提供することにある(第二欄第一五行ないし第二一行)。

(二) 構成

本件考案は、前記課題を解決するために、その要旨とする構成を採用したものである。

本件考案の構成を別紙第一図面に示されている実施例によつて説明すると、2は機枠1内に配設されたボイラーであつて、その本体内には、加熱室27が本体内壁との間に空間部を有するように配置され、右空間部は、逆止弁5を介して水源に接続する給水管3を配管した貯湯室28となつている。貯湯室28から送湯管4が導出されて、フロートバルブ(「フローバルブ」とあるのは「フロートバルブ」の誤記と認められる。)7を取り付けた温水タンク6に接続され、温水タンク6は配管を介して送湯ポンプ9のストレーナ10に接続される。温水タンク6とストレーナ10とを接続する配管には、T字型継手14(「4」とあるのは「14」の誤記と認められる。)を介して、ストツプバルブ15を有し洗剤タンク13に接続する配管が接続される。送湯ポンプ9は、ベルトによつてポンプ駆動モータ16に連結されており、ストレーナ10には高圧ホース17を介して洗滌銃18が接続される。送湯管4の途中には、T字型継手11を介して、ストツプバルブ12を有する手洗用の配管が分岐接続される(第二欄第二二行ないし第三欄第五行)。

電気系統は、送湯ポンプ9系統と燃焼装置系統とに分離して構成される。すなわち、送湯ポンプ9系統は、スイツチ31を入れるとモータ16が作動して洗滌銃18から洗滌液を混合した温水等が噴射される。一方、燃焼装置系統は、スイツチ32を入れるとモータ24が作動して燃料ポンプ21及びブロワ23が駆動すると共に点火高圧トランス25に電圧が印加され点火プラグ26から火花が飛んで、加熱室27内において燃料タンク19から送られて来た燃料油が燃焼される(第三欄第一三行ないし第二五行)。

ボイラー2内の貯湯室28内には温度検出器29が設置され、その指令に基づいて温度調節器30が作動するが、右温度調節器30と燃焼装置とは連動しており、したがつて貯湯宴28内の水温が温度調節器30に設定された温度に達すると自動的に燃焼が止められ、設定された温度より下降すると自動的に燃焼させることによつて、貯湯室28内の水温は常に一定に維持される(第三欄第二六行ないし第三五行)

(三) 作用効果

本件考案は、左記のような作用効果を奏する。

<1> 従来の洗車装置のように加熱コイルを用いていないため、目詰まりによる送湯ポンプの故障等の問題がなく、かつ、内部抵抗が小さく大容量のものになし得るので温水供給量を増大でき、耐久性も優れている。

<2> 温水洗車と冷水洗車とを独立に行うことが可能であると共に、事前に燃焼装置を作動させておくことによつて直ちに温水洗車を行うことができる。

<3> 冬期の不使用時にも、従来の洗車装置のように水抜きをする必要が全くない。

<4> 従来の洗車装置と比較すると構造が簡潔であつて、価格が経済的である。

<5> 大容量の温水を常時供給できるため、洗車のみならず手洗用など装置を多目的に使用できる(第三欄第三七行ないし第四欄第三九行)。

2 一方、成立に争いない甲第九号証によれば、引用例1には、燃焼室4を内蔵する水室3を洗滌液剤室2で被包し、該水室3の一分室5を水室3を貫いて機体外高位に突出開口させ、この分室5及び液剤室2にそれぞれ浮板8及び浮子9を保蔵させ、右浮板8及び浮子9にそれぞれ導出具29及び30を支承させ、導出具29及び30を機端側に設けた栓を有する管13及び14に可撓管10及び11で連通させ、該管13及び14を混合具15に併合して喞筒17の吸込口に連結し、喞筒17の放出側には先端に噴射嘴を有する可撓管を連結して成る噴射洗滌機が記載されていることが認められる(別紙第二図面参照)。

3 一致点の認定について

原告は、審決が、引用例1記載のものは燃焼器22と喞筒17とを個別的に作動し得るようにそれぞれを作動させる操作スイツチを分離して設けているとし、本件考案と引用例1記載のものは燃焼装置と送湯ポンプとを個別的に作動し得るようにそれぞれを作動させる操作スイツチを分離して設けた洗滌装置である点において一致すると認定したのは誤りであると主張する。

確かに、前掲甲第九号証によれば、引用例1にはその燃焼器22と喞筒17とを個別的に作動し得るようにそれぞれを作動させる操作スイツチを分離して設けることは明記されていない。しかしながら、その第二欄第二一行ないし第二三行には「充分の加温状態に達したとき各栓を開き喞筒17を起動してこれを(中略)吸出して(中略)噴射し」と記載されている。右記載を、引用例1の他の記載及び別紙第二図面を参照して判断すると、引用例1記載のものは、加温水が十分な加温状態に達するまでは喞筒17を起動させないで燃焼器22のみを作動させること、すなわち燃焼器22と喞筒17とを個別的に作動し得る構造のものであると認めることができる。そして、そのような構造とするために、それぞれを作動させる操作スイツチをどのように設けるかは、単なる設計事項にすぎないというべきである。

したがつて、審決の一致点の認定に誤りはない。

4 相違点の判断及び本件考案の作用効果について

原告は、本件考案の貯湯室28に接続する水源は連続給水機能を有しかつ給水圧が貯湯室28の水頭圧以上のものに限定され、貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定され、したがつて貯湯室28からの給湯圧は水源の給水圧が維持され、かつ、温水タンク6はフロートバルブを内蔵し、したがつて自動給水制御機能を有するものに限定されると主張し、これを前提として、審決の相違点の判断は誤りであり、かつ、審決は本件考案が奏する顕著な作用効果を看過していると主張する。しかしながら、原告の右主張は本件考案の要旨に基づかない恣意的なものであつて、到底採用することができない。すなわち、

前掲甲第二号証によれば、明細書あるいは別紙第一図面のいずれにも、本件考案の水源が連続給水機能を有し、かつ貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するものに限定される旨の記載は認められない。のみならず、本件考案は、水源が貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するものであれば足り、その水源が水道のように連続給水機能を有しなければその作用効果を奏し得ないものではない。

また、前掲甲第二号証によれば、明細書には、本件考案の貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定される旨の記載は認められない。もつとも、別紙第一図面には貯湯室28が大気に連絡しない密閉されたもののように記載されているが、これは本件考案の一実施例がそのように構成されているというにすぎず、明細書、とりわけ実用新案登録請求の範囲には、その貯湯室28を大気に連絡しない密閉されたものに限定して解すべき根拠を見いだすことはできない。

さらに、前掲甲第二号証によれば、明細書には、本件考案の温水タンク6がフロートバルブを内蔵し、したがつて自動給水制御機能を有するものに限定される旨の記載も認められない。フロートバルブは、液体の供給あるいはその遮断を制御する手段として本件出願前から慣用されているものであつて、明細書においても一実施例の説明としてフロートバルブ7を温水タンク6に取り付けたことが記載されているにすぎず(第二欄第三〇行及び第三一行並びに別紙第一図面)、実用新案登録請求の範囲には、その温水タンク6を自動給水制御機能を有するものに限定して解すべき根拠を見いだすことはできない。

なお、原告は、相違点<3>に関連して、本件考案の貯湯室28はボイラー単独運転時の異常加熱による蒸気爆発を回避するに十分な合理的容積に設定されると主張するが、右は本件考案の要旨外の設計事項にすぎないというべきである。

右のとおり、原告が本件考案の水源、貯湯室28及び温水タンク6の構成として限定的に主張するところは、いずれも本件考案の要旨に基づかない恣意的なものといわざるを得ず、原告が周知の技術として援用する甲号各証を参証しても、これらを、明細書における本件考案の目的及び構成の記載並びに本件出願当時の技術水準から論理必然的に導き出される事項と解することはできない。したがつて、そのように限定された本件考案の構成を前提として主張されている審決の相違点の判断及び本件考案の作用効果についての取消事由は、その余の点を検討するまでもなく、採用することができない。

5 以上のとおりであるから、本件考案は引用例1及び引用例2記載の技術的事項及び本件出願前に周知の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

ボイラー本体内に、加熱室を、該加熱室とボイラー本体内壁との間に空間部を有するように設け、該空間部を水源に接続する貯湯室とし、加熱室に貯湯室の温度調節器と連動する燃焼装置を設け、前記貯湯室に、手洗用の配管を分岐接続した配管を介して温水タンクを接続し、該温水タンクと洗剤タンク及び洗滌銃とを、配管を介して送湯ポンプに接続すると共に、前記燃焼装置と送湯ポンプを作動させる操作スイツチをそれぞれ個別的に作動し得るように分離して設けたことを特徴とする自動車用洗車装置。

(別紙第一図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

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